労使トラブルを防止するために

1. 労働条件の明示をする

労働者(正社員、パート、アルバイトを問いません。)を雇い入れたときには、使用者が労働者に労働条件を明示することが必要です。特に重要な事項(1~5)については、口頭ではなく、きちんと書面にて交付する必要があります。

◆必ず明示しなければならない事項(1~5は書面の交付による明示事項)

  • 1. 労働契約の期間
  • 2. 就業の場所、従事する業務の内容
  • 3. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
  • 4. 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
  • 5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  • 6. 昇給に関する事項 ※

◆会社が定めをした場合に明示しなければならない事項

  • 7. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項 ※
  • 8. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項 ※
  • 9. 労働者に負担される食費、作業用品その他に関する事項
  • 10. 安全・衛生に関する事項
  • 11. 職業訓練に関する事項
  • 12. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 13. 表彰、制裁に関する事項
  • 14. 休職に関する事項
  • ※パートタイマー(短時間労働者)・有期雇用労働者については、パートタイム・有期雇用労働法により、昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口について、文書の交付等による労働条件明示が必要です。

労働条件明示には「労働条件通知書」のモデル様式をご活用ください。
労働条件通知書(雇入れ通知書)

労働条件通知書の交付は、労働者が自分の労働条件を書面で確認できるため、納得・安心して働くことができるとともに、労使間の無用なトラブルを防止することができます。

2. 就業規則を作成する

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、以下に掲げる事項について、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。また、就業規則は、各作業場の見やすい場所への掲示、備付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければ、効力は発生しないと解されています。

◆必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)

  • 1. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 2. 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 3. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

◆会社が定めをする場合には、記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)

  • 4. 退職手当に関する事項(適用者の範囲、退職手当の決定、計算、支払の方法・時期)
  • 5. 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
  • 6. 食費、作業用品などの負担に関する事項
  • 7. 安全衛生に関する事項
  • 8. 職業訓練に関する事項
  • 9. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 10. 表彰、制裁に関する事項
  • 11. その他全労働者に適用される事項

〖就業規則作成のメリット〗

就業規則とは労働者の労働時間や賃金などの労働条件に関すること、職場内の人事・服務規律などについて定めた職場における規則集です。あらかじめ職場でのルールを定め、労使双方がそれを守ることで労働者が安心して働くことができ、労使間の無用のトラブルを防ぐことができるので、就業規則を作成することは非常に重要です。
まだ、作成されていない場合は、是非当事務所へご依頼ください。

3. 賃金の支払ルールを守る

(1) 最低賃金

人を雇うとき労働者に支払う賃金は「最低賃金法」によって、最低限度額が定められています。最低賃金は、都道府県ごとに決まっており、例えば東京では、時給1,163円です(令和6年10月現在)。たとえ労働者が同意していても、それより低い賃金での契約は認められません。最低賃金より低い賃金で契約したとしても、法律によって無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。
最低賃金には「地域別最低賃金」と「産業別最低賃金」の2種類があり、両方の最低賃金が同時に適用される場合には、いずれか高い方の最低賃金額が適用されます。
最低賃金の概要はこちら(最低賃金特設サイト)

(2) 賃金支払いの5原則

労働基準法において、賃金の支払いについて以下①~⑤の原則が定められています。

  • ①通貨払いの原則
    賃金は現金で支払わなければならず、現物(会社の商品など)で払うことはできません。ただし、労働協約で定めた場合は通貨ではなく現物支給をすることができます。また、労働者本人の同意を得て、本人の指定する銀行や金融機関への振込みは可能です。
  • ②直接払いの原則
    賃金は労働者本人に払わなければなりません。労働者の親権者その他の法定代理人等にも支払うことはできません。
  • ③ 全額払いの原則
    賃金は全額を支払われなければなりません。ただし、所得税や社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められています。それ以外は、労使協定を結んでいる場合は認められます。
  • ④ 毎月1回以上払いの原則
    賃金は毎月1回以上支払わなければなりません。ただし、臨時の賃金や賞与(ボーナス)は例外です。
  • ⑤ 一定期日払いの原則
    賃金は毎月一定期日に支払わなければなりません。支払日を「毎月20日~25日の間」や「毎月第4金曜日」など変動する期日とすることも認められません。ただし、臨時の賃金や賞与(ボーナス)は例外です。

(3) 割増賃金(残業代)

労働基準法において、以下①~③の労働時間に対して、割増賃金が定められています。

  • ①時間外労働
    労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、1週40時間までと定められています。この法定労働時間を超えて労働をさせた場合が、労働基準法の(法定)時間外労働となります。時間外に労働させた場合(1か月に60時間以内)には2割5分以上、1か月60時間を超えて時間外に労働させた場合には、5割以上(※中小企業については適用猶予のため2割5分以上)の割増賃金の支払が必要です。
  • ②休日労働
    労働基準法では、休日は、1週間に1回あるいは4週間を通じて4日以上付与することと定められています。この法定休日に労働をさせた場合が、労働基準法の(法定)休日労働となります。法定休日に労働させた場合には3割5分以上の割増賃金の支払が必要です。
  • ③深夜労働
    深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働させた場合には2割5分以上の割増賃金の支払が必要です。

基本給の中に毎月数時間分の固定残業代を含めて支給しているケースは近年判例等で違法と解釈されています。必ず基本給と残業代の項目を分けて支給しましょう。
割増賃金の概要はこちら(東京労働局のHP)

また、残業を行わせるためには、書面により労使協定を締結し、「時間外・休日労働に関する協定届」を所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。
時間外労働・休日労働に関する協定届に関して(東京労働局のHP)

4. 労働保険に加入する

(1) 労災保険

労災保険は、労働者の業務が原因でけが、病気、死亡した場合や、また通勤の途中の事故などの場合に国が事業主に代わって給付を行う公的制度です。
基本的に労働者を一人でも雇用する会社は適用され、保険料は全額事業主が負担します。パートやアルバイトも含むすべての労働者が対象です。
労災保険制度の概要はこちら(厚生労働省のHP)

〖中小事業主等の特別加入制度〗

労災保険は、労働者の業務災害及び通勤災害に対する保護を主たる目的とするものであり、会社経営者、役員等の事業主は労災保険の給付を受けることができません。しかし、労働者以外であっても、その業務の実態や規模、災害の発生状況その他からみて労働者に準じて保護をすることが適当である方もいます。これらの方を労災保険の適用労働者とみなし業務災害及び通勤災害について保険給付等を行うのが特別加入制度です。
当事務所が会員となっている東京SR経営労務センター(厚生労働大臣から労働保険の事務処理を行うことを認可された中小事業主等の団体)を介し、労災保険の中小事業主等特別加入の手続きが可能です。

(2) 雇用保険

雇用保険は、労働者が失業したとき、教育訓練を受けるとき、育児・介護のため休職したときなどに、生活の安定と就職の促進のための必要な給付を行う保険制度です。
また、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかるため事業主に助成金を支給する二事業(雇用安定事業・能力開発事業)も行っています。

事業所規模にかかわらず、以下①、②に該当する人を雇い入れた場合は適用対象となります。

  • ①1週間の所定労働時間が20時間以上
  • ②31日以上の雇用見込がある

保険料は労働者と事業主の双方が負担します。
雇用保険制度の概要はこちら(ハローワークインターネットサービスのHP)

5. 社会保険に加入する

(1) 健康保険

健康保険は、労働者やその家族が、業務とは関係ない病気やけがをしたとき、出産をしたとき、亡くなったときなどに、必要な医療給付や手当金の支給をすることで生活を安定させることを目的とした保険制度です。

健康保険の強制適用事業所は以下になり、強制適用事業所で働く方は加入者となります。

  • ①国、地方公共団体または法人事業所
  • ②農林漁業、サービス業などの場合を除く、労働者が常時5人以上を雇用する個人事業所
  • ※パート、アルバイト(短時間就労者)は、被保険者数100名を超える特定適用事業所を除き、基本的に「1週間の所定労働時間」「1ヶ月の所定労働日数」のどちらか一方が、通常の労働者の4分の3未満であれば適用除外になります。
    保険料は事業主と労働者が折半で負担します。
健康保険制度の概要はこちら(全国健康保険協会のHP)

(2) 厚生年金保険

厚生年金保険は、労働者が高齢のため働けなくなったり、病気やけがによって身体に障害が残ってしまったり、大黒柱を亡くしてその遺族が困窮してしまうといった事態に際し、保険給付を行う制度です。

厚生年金保険の適用範囲は、健康保険と同様になります。
保険料は事業主と労働者が折半で負担します。
厚生年金保険制度の概要はこちら(日本年金機構のHP)

このページのトップへ